No.0012

サントリーの外部からの社長招聘…何となく腑に落ちない

一見、良いニュースに思われるが…。

6月24日の日本経済新聞は、サントリーホールディングスが、ローソンの新浪会長を10月1日付で社長に招く人事を固めた、と報じた。グローバル経済の時代において、一族経営の限界を創業家である佐治家が感じて決断したこととすれば、方向性としては適切と思われる。
ただし、筆者は、今回の件を見て、何となく腑に落ちない点がいくつかあることを否定できない。その背景を、率直に述べてみたい。

サントリーの中に人材がいないのか?サントリーの社員は屈辱感を抱くべきでは?

まず第一に、サントリーという会社は、ブランドイメージも高く、就職における人気企業の常連である。その帰結として、当然のことながら、優秀な社員が多く集まっているものと推量される。その中で、新浪氏を外部から社長に据えるということであれば、それを正当化できる理由は3つしかない。サントリー社内に次期社長を任せられる人材が皆無だったか、そうではないにしても新浪氏を超える人材が社内にいなかったか、社内に社長候補はいるが即座のバトンタッチは無理があるので新浪氏というクッションを入れたか、のいずれかである。ただし、いずれにしても、もしサントリー内部に「自分は次期社長になれる」との強い自負を持っている人がいたとしたら、今回の件はそれが否定されたということで、少なからずの社員にとっては屈辱的な話ではないかと推測される。

新浪氏の招聘に異議はないが…

第二に、サントリーが社長に招聘すると報じられている新浪氏が、敢えてこれまでの同族経営の方針を捨ててまで招聘に値するかという問題だ。
確かに、新浪氏は、報道にある通り、12年間にわたりローソン社長を務め、2014年2月期まで11期連続の営業増益を果たすなど、経営者として並外れた実績を残されており、私も大いに敬服しているところだ。一方で、三菱商事の一サラリーマンであった氏が、三菱商事に所属していたということで「大いなるチャンスを得て、それをものにした」という観点から見ると、氏のサクセスストーリーは自力だけでは実現不可であったことは言うまでもなかろう。もっと言えば、氏の成功の要因のかなりの部分は、氏が三菱商事に所属していたことにあり、本当に偉いのは一サラリーマンに経営のチャンスを与えた三菱商事なのではないかとさえ思えてしまう。その意味で、「新浪氏でなければローソンの成長は実現できなかったか?」というように質問を置き換えて考えて見ると、それに簡単に答えるのは難しいであろう。
このようなことをなぜ申し上げるかというと、結局人事というものは、権力を持った人に認められるか否かに大きく左右するものであり、権力者から抜擢された人が周囲の他人よりも明確に優れた実力を持っているか否かという観点とは、別物と捉えるべきだと考えるからである。その観点から、日本経済全体を鳥瞰すると、現在は社外取締役のニーズ拡大により、一人で複数の社外取締役を兼ねている例が多い。しかし、私の目からすると、テレビに出ることの知名度や過分の評価に基づき、過大評価されているのではないかという人が散見されるのだ。
話は飛ぶが、私がオリックスの宮内会長をあまり評価していない理由は、この点に関係する。勘違いしている人が多いが、彼がオリックスに入ったときは、単なる一サラリーマンであり、資本の大半もニチメンや三和銀行という大企業が出資をしてオリックスを作り上げたのである。然るに、1980年から30年以上も経営トップの座に座り続けた。その結果として、私には、同社が後継者難に直面していると見える。知名度抜群の経営者・学者等は、自分自身の力で今の地位に上り詰めたと思っている人が多そうだが、現実には、最低限の能力は必須としても、その人となりを「他人に評価してもらった」というプロセスがあって、初めて今の地位があるのである。したがって、そうした経営者等は、自分が過去に受けた恩を、後身の抜擢という形で、世の中に返していくべきというのが筆者の考えだ。
話を元に戻すと、新浪氏が率いるローソンは、一企業として見ると、前述の通り素晴らしい実績を残していると言えるものの、業界一位のセブンイレブンとの格差は縮まっていないというのが私の考えだ。むしろ、店頭で販売されている飲食物や、店内レイアウト等を総合的に見ると、格差が拡大しているように感じるのは筆者だけだろうか。それでいながら、新浪氏は週刊ダイヤモンドに「悩みぬく力」などという連載を行い、脱力感溢れる答えを元気良く載せている。「人の相談にのっている時間があっていいな」「その原稿を書く暇があったら私が経営者なら他のことに時間を使うだろうな」と私は思っている。また、私が氏の立場なら、セブンイレブンを抜いてから次のことを考えたいところだ。
それでは、仮に私がサントリーの中で、外部から社長を招聘する立場にいたら、何を基準に人を選ぶか?第一の条件は、「ゼロから起業して、相応の規模までの拡大を果たした経営者」である。そして、その候補は、例えば東証マザーズやジャスダックを見ても、たくさんおられる。然るに、世の中の投資家や大企業は、光は当たっていないが、実は一般的知名度が高い人たちよりも遥かに優れた人材を、しっかりと見ていない。社外取締役の候補者不足なんて言っている人がいたら、その人は、人を見分ける能力不足であることを、世の中に白状していることと同義であろう。

大木昌光