No.0146

1月の運用概況と今後の運用方針

1.始めに
 1月は、MASAMITSU日本株戦略ファンドを始めとする日本株ファンドにおきましては、大変不本意な投資リターンにとどまりました。投資家の皆様に心より深くお詫び申し上げます。株価は低調に推移していますが、3月にかけて強気の運用スタンスを継続することが適切と考えております。それにより、着実なリターンの回復を目指して参ります。以下で、1月末の市況概況、運用状況、今後の運用方針などについてご説明いたします。

2.市況概況
 もともと2022年3月期については、①堅調な企業業績、②世界的な脱炭素の流れ加速を通じた製造業の復権、③コロナ問題の軽減、という3つの大きなポジティブ要因を背景に、米国での金融緩和縮小という主要ネガティブファクターを吸収する形で、日経平均株価で35,000円到達(2020年末27444円から28%上昇)という大幅な株高を予想しておりました。
 その大枠は概ね想定通りに動いている一方で、2021年はネガティブファクターが頻出して「ノイズ」的に日本株に影響を与え、21年4月から12月後半まで私の運用も悩まされてきました。具体的には、年始のロビンフッド問題から始まり、米国金利上昇、アルケゴス問題、年金売り、米国金利低下による成長懸念、日本でのワクチン接種遅れ、世界的なコロナ変異種拡大、度重なる緊急事態宣言、与党の支持率低下、アフガニスタン問題、中国の規制リスク顕在化、オミクロンの発生、12月の大量新規上場などが挙げられます。
 それでも、それら要因の中で最低限の立ち回りができ、12月の大量の新規IPOも概ね通過して、12月4週目末にはファンドとしての最高値更新を志向できる位置まで立て直すことができていました。しかし、12月5週目から変調を来たし、1月までこれまであまり経験したことがない不調が継続する事態になりました。その要因は、以下の4つです。

 ① 再生可能エネルギー事業者のレノバが、秋田の由利本荘における洋上風力発電案件を失注したこと
 ② 年始から極端なバリュー相場(グロース売り)が続いたこと
 ③ 1月FOMC前後のFRB金融引き締めに対する警戒感拡大
 ④ マザーズに代表される中小型株やグロース株の大幅下落

 まず①については、レノバ自体を保有していて、直近価格から5割の損失を被りました。しかし、これだけであれば大した要因ではありませんでした。本件は、それよりも遥かに重い禍根を市場に残すことになりました。第一に、今回の3つの洋上風力発電案件について三菱商事を中心とするグループが勝ち取ったことで、レノバのように経営力や人材の質などの点で極めて優秀な会社であっても、それが「単一事業しか展開していない中堅中小企業であれば大企業には勝てない」ということを世に示したからです。裏を返せば、1月から起きている大型バリュー株相場の一端に、この大企業有利の状況を鮮明に示した本件が関わっている状況も否定できない可能性もあります。これにより、基本的に単一事業から構成される中小型株の今後の成長可能性に大きな疑問を湧き起こしました。その現れとして、12月第4週に底を打ちかけた中小型株が、第五週に早くも失速し、後に述べる年明けの1月の中小型株大不振につながっていきました。第二に、「再生可能エネルギー事業」という今後の有望なサブセクターが、消失の危機に瀕したことです。異様とも言えるほどの安値で三菱商事が勝利したことで、ブルーオーシャンと思われていたこのサブセクターは、一気にレッドオーシャンに転落するリスクに見舞われました。

 次に上記②については、年始から明確に「大型バリュー株」優位の相場になりました。クリスマス休暇入りする12月にポジションを大きく落とした投資家のポジション再構築の中で、ポジション組み増しの大半が大型バリュー株に向けられたと推測します。ちなみに、「バリューからグロース」や「グロースからバリュー」という転換は、時々起こることであり、その流れへの対処は、ある程度の痛みは被りながら概ね可能と考えています。ただ、1月の相場の特異な点は、投資家が年始に大型バリュー買いでポジションを積み増した後に、中旬はグロース・中小型株を売って大型バリュー買いを継続買いし、月後半には後に述べるFOMC前の投資家のセンチメント悪化で、投資家が全体のポジションをグロース・中小型株売りにより落としたことです。つまり、年始直後のほんの数日を除いては、ほぼ毎日、中小型・グロース売りが続いたのです。

 上記③については、1月27日のFOMCを控え、15日からのブラックアウト入りから、投資家の間でFRBのタカ派変換への懸念が急速に強まり、米国株を中心としてリスクオフとも思えるほどの弱気相場に入ったことです。1月の前半までは「3月に25bp利上げ、年3-4回の利上げ、その後しばらくしてバランスシート縮小開始」がコンセンサスであったものが、次第に「3月に50bp利上げ、FOMC毎に毎回利上げ、利上げと概ね同タイミングでのバランスシート縮小」といった急速な引き締めの懸念が台頭してきました。一方で、米国専門家の間では、市場が懸念するような引き締めにはならないという見方が大半だったと認識しています。その中で開催されたFOMCは、パウエル議長が3月の50bp利上げや会合の度に毎回利上げという可能性も否定しない、タカ派的な色彩の濃い形になりました。それが、市場の混乱を助長する形になりました。

 上記④については、前述のレノバの件やバリュー相場入りの中で、中小型株は売り一辺倒になりました。12月の大量の新規上場を受けて調整した中小型株は、バリュエーション的に説明可能な水準に入った銘柄も散見されたこともあり、1月は落ち着きを取り戻す可能性も十分にありました。しかし、年始からのバリュー相場と世界的株安の中で、中小型株は1月に12月以上の下げを演じました。加えて、半導体・電子部品・情報通信株に代表される高バリュエーションのグロース株も叩き売られました。折しも、半導体関連株は、今年中盤頃から調整局面入りするとの見方が強まり、バリュエーションの高低にかかわらず半導体に関連しているというだけで売られることになりました。

3.運用概況
 前述の通り、オミクロン発生を21年の最後のリスクファクターと捉え、かつ、12月の大量上場を市場がこなしたと見なし、私は12月第4週において中小型株を中心に相場が底を打ったと判断しました。しかし、レノバの件で中小型株が弱含むのを見て、一旦中小型株の割合を落としましたが、かなりの痛手を被りました。それでも、その下落で中小型株はバリュエーション的な調整も進んだことから、年始から中小型株ポーションの拡大の可能性も含めた強気のポジション構築を行うことを検討していました。
 しかし年始は、強いバリュー相場で始まる中で、金融・保険・電鉄・自動車などのバリュー株の保有増加と中小型株やグロース株のポジション抑制を行いました。一方で、中小型株・グロース株とも中旬頃までには割安圏に入ったものも数多く見られたことから、時々それらのポーションを微増させながら強気ポジションを維持しました。しかし、FOMC前の世界的株安とバリュエーションを無視した形での世界的な中小型・グロース売りが続き、増やす度にすぐ撤退を迫られるという形で、防戦一方となりました。
 とはいえ、FOMC前のFRBのスタンス変更への懸念については、市場でかなり悲観的なシナリオまで織り込みにいっていたことと、FRBが明確な方針を示す(FRBの方針の「透明化」)ことを予想して、その直後から急速に株価は戻すと考えていました。しかし、結果は、パウエル議長が3月50bp利上げも、毎回の利上げも否定しないという「不透明性」が示されたことで、市場の動揺は収まらなくなりました。その中で、日本株は、利上げの当事国でもないのに、当事国の米国よりも大幅に下げるという毎度ながらの情けない状況を演じ、27日にも大幅に損失を計上しました。このような形で、1月は月を通じて、絶対値で大幅な損失を計上した上に、TOPIXや日経平均株価からも大きく劣後するという、これまでのファンドマネジャー人生でなかったほどの低パフォーマンスとなりました。

4.年始相場の日本株に与えるインプリケーション
 今から振り返れば、年始のバリュー優位の動きと、継続的な中小型・グロース売り、FOMC前の世界的リスクオフの流れの中で、全体的に弱気のポジション構築(例えばキャッシュ比率増など)と中小型・グロース株売りの積極化を行うべきだったと反省をしています。
 一方で、私が強調したいことが何点かあります。
 第一に、世界的に「ファクタートレード」が「個別株のバリュエーション」を蹂躙する形で幅を利かせすぎているということです。この1月に下げた医師向け情報サイト運営のケアネットやメドピアは今後数年30%前後の高成長が期待できる中で、昨年末段階で来期PER20-25倍の水準まで低下しました。これは、いわゆる「PEG」をベースとしたファンダメンタル的な見方からは買いを「容易に」正当化しうる水準です。しかし、この2銘柄は1月に更に20%以上株価が下落しました。また、半導体関連のスクリーンHDやルネサスエレクトロニクスは、PER10-15倍に留まる中で世界的な半導体関連株安により値を下げています。これらの銘柄を、売られているからという「モメンタム」的理由で売るのは簡単です。しかし、「ファンダメンタル」分析により運用を行っている私が、「モメンタム」になびいたら、それは自己否定だと強く感じております。私のような立場の人間は、分析を尽くしたら株価が適正値と考える水準に戻ることを辛抱強く待つことが職務の一環だと考えるべきです。
 第二にハーディング現象の怖さです。今回は、キーエンス、リクルート、日本電産、ソニー、エムスリーなど日本を代表する大型グロース株も低調な推移になっています。これらの銘柄は、誰しも認める日本の優良株なので、多くのファンドが保有し、その帰結としてリスクオフ局面でのファンドの見切り売りが多発すると必然的に不人気銘柄よりも株価が下がることになります。それは、理念的にも容易に予想することです。それなら、「そういう銘柄を持たなければいいのではないか」という疑問が生まれても当然ですが、そう簡単にはいかない日本株の決定的特徴があります。それは、「日本株の相対的魅力度減退→投資妙味のある銘柄数の有意な減少」です。上記のような銘柄を意識的に減らせば、これも「ファンダメンタル分析に基づく運用」の自己否定になります。その対策としては、そのような銘柄を(売り切るのではなく)保有量を減らし、その削減分を次に有望と思う銘柄に回すしかありません。その意味で、MASAMITSUファンドは、上場企業全てを投資対象とみなし、多くの投資候補を有しています。それが、今回の局面でも多少なりともパフォーマンスの下支えになったと考えております。
 第三に日本の米国従属的色彩が深まっているということです。軍事的にも政治的にも、米国に従属しています(それは悪い意味だけではなく、例えば中国ベッタリのスタンスよりは遥かにましですが)。加えて、最近の日本株は、英語圏の会社に主導権やプラットフォームを奪われ、80-90年代に見せた世界の主役的地位から脱落しています。つまり、日本は「軍・政」のみならず、「経」でも完全に米国の従属的位置になり下がってしまったのです。だから、日本株は、世界的リスクオン時には最後に買われ、世界的リスクオフ時にはその流動性を逆手に取られて真っ先に売られ、空売りまで浴びせられる投資対象と化してしまいました。だから、FRBの金融引き締めという、「よその国」の金融政策の話題で、当事国の米国よりも売られます。27日から28日の株価の動きはその象徴で、27日のFOMCの結果を十分に咀嚼できないまま米国株が概ね横ばい圏で推移した後、少し時間が経過して日本時間になってFRBのタカ派転換を多くの投資家が認識したことで、日本株が売り殺到、売りヘッジ殺到となり株価が3%程度下げました。これは、どう考えても行き過ぎの動きで、日本株の投資家は、これまで以上に「忍耐」が求められるようになっています。
 第四に日本の市場分析者たちのレベルの問題です。アナリスト出身者の立場を踏まえて弁明すると、多くの分析者は「良く調べて」います。しかし、例えば半導体業界で言えば、アナリストは、目先の絶好調に目をつぶり、本当に到来するか不明な今年中盤頃の調整を重視しています。実は、彼らは昨年9月末に同じ間違いを起こし、昨年末から今年前半にかけて調整が来ると警戒感を呼びかけ半導体業界の株価が2割程度調整しましたが、彼らが調整必至と予想していた時期になった現段階で、彼らがそれを予測した昨年夏よりも好調な状況です。私は、中長期的な半導体ニーズを考えたら、数か月レンジの「わずかな」調整よりも、5-10年にわたって継続するかもしれない「大きな」半導体成長の方に目を向けるべきと考えています。また、そもそもの問題として、現在は全世界的に「半導体不足」となっていますが、供給が極端に不足して需要が旺盛な産業を売り推奨することが正しいのかという「大学生でもわかる論理」の観点からの視点も必要ではないでしょうか。
 また、先ほどのFOMC後の日本株下落を見ても、日本の金融関係者は「金融引き締めは米国というよその国で起きてるんですよ、日銀は1mmもスタンス変更していませんよ、日本の企業の資金調達環境は全く悪化してませんよ、日本株は個別株でもかなりの割安になってますよ、日本株を売るのはおかしいですよ」とは言わず、警戒感を強めろとか、米国株と日本株は相関関係にあるとか、低ボラティリティの安全株にシフトしましょうとかいう、私から見たら愚かとしか思えない主張ばかり繰り返しています。そもそも、高インフレになっている理由は「旺盛な需要」が背景となっているわけで、高インフレと高需要を同列に論じるというのが分析者の基本スタンスではないでしょうか。そうであれば、需要が強い経済で株を売ることが果たして適切なのでしょうか。このような人たちが、市場の意見を支配していることに、情けなさと無力感を感じています。私なら、優良株が大きく値下がりしている現況では、「PER10倍台の優良株や、これまでPERが40-50倍で買いづらかったが20倍台に入ってきた優良株を買いましょう」と言うところです。今みたいな局面で、「電力ガス株を買いましょう」という「外野席の観客的評論家」とは一線を画したいところです。
 第五に「インフレを知らない子供たち」の存在です。私は小中学生の時代に、オイルショックに端を発したインフレパニックを目にしています。それと比べれば、今の日本で、牛丼が300円台から400円台になったり、カップ麺が200円になったりすることなど、微々たる変化にすぎないし、米国の今のインフレでさえも大事には思えません。しかし、今の市場関係者は40代以下の人たちが世界的に主流となり、インフレがひどかった時代の記憶がない人で占められています。その人たちは、インフレを「数字」で判断して一喜一憂していますが、本来的にインフレは「肌感覚」で感じるものです。今の米国で、7%の物価上昇率に接し、利上げにおののく若い金融関係者を見ると、毎年物価が何倍にもなり金利が10%近くなる世界を見てきた私からすれば滑稽なほどに思えることがあります。今の米国は短期金利ゼロ、長期金利1.8%です。数字を見たいなら、この低い絶対値を見るべきだと思います。私の感覚では、今の市場関係者は、風呂の温度が30度から33度に上昇して、「このまま上昇し続けたら大変だ」と騒いでいるようなものです。33度でもぬるくて入れないレベルだし、熱くて入浴していられない45度レベルに達するまでは時間もかかる上に、そこまでいく可能性は極めて低いと思います。

5.運用方針と重点戦略
 今回のFOMCでFRBが事前予想の極限に近いところまでタカ派化したことで、市場ではしばらくは動揺が続く可能性があると考えます。しかし、私の感覚では、FRBのタカ派変更自体よりも、FOMC前後に米国10年債の金利が約1.9%に達したことで米国株が調整した事態を重く見ています。2018年の2月と10月に同金利が3%にタッチして世界的に株価が大きく調整しましたが、今の段階で株価調整につながりうる金利の臨界点は2%なのではないかと考えています。したがって、まずは、「米国10年債が2%に達しないことを前提とした積極運用」を継続して参ります。
 個別では、ここまで述べてきたように、1月末にかけて国際優良銘柄が大きく調整し、願ってもない価格となっていて、これを拾わない手はないと思います。為替が1ドル=115円まで円安が進んでいることも、高業績が続く日本の製造業にポジティブです。3Q決算を見ても、ここまではファナック、富士電機、新光電気工業、信越化学工業などの主要企業の決算が絶好調で、当面は衰える兆しがほとんど見つからない状態です。ここまで売られた半導体・電子部品株も積極的に組み入れて参ります。加えて、バリュー株と言われる中でも、「PER2倍で配当利回り10%」の海運株や、「来期減益でも配当維持で配当利回り7-8%の鉄鋼株」など、どう考えても価格水準が不当に安い銘柄がそこかしこに転がっています。これが、「米国従属取引」「バリュエーションを無視したファクタートレード」の帰結・弊害です。したがって、そのような割安株を積極的に拾う強気の運用を行って参ります。加えて、コロナ前の水準を大きく下回る「リオープニング関連銘柄」が、オミクロンの感染者数がピークを打つと予想される2月初旬から動意づく可能性も高いと考えており、有力な投資対象として考えています。なお、全世界でこれだけの高いインフレ率に見舞われているということは、その余波が日本にも近いうちに押し寄せインフレ率が恒常的に2%に達する可能性は高いと思います。それは黒田氏が日銀総裁就任後初の事態であり、その際には日本の金利も上昇するでしょう。銀行を代表格とする金融株は投資対象として必須の地位に上昇するでしょう。
 まずは株価回復が大型株から始まるでしょうから、大型株を中心にポートフォリオを構築します。ただし、中小型株やマザーズ銘柄も、ここまで売り込まれると戻りの確度や幅は場合によっては大型株よりも優位に大きいと思われます。したがって、時間の経過とともに、中小型株のポーションをゆっくりと拡大して参ります。
 以上を勘案して、2月の日本株については、ドル円115円前後を前提に、まずは日経平均株価で26,500円から28,500円のレンジでの高値での推移を予想します。その後、3月末の配当落ちにかけて30,000円前後までの上昇を予想します。その中で、「強気の運用」を継続して参ります。

以上


大木 將充