No.0010

株価は適正か?①…アドバンテスト

バブル崩壊以降、ことごとく水準訂正され、合理的範囲内に落ち着いてきた日本株

数多ある日本株の中で、かつて通常のバリュエーションで正当化が難しい株は、数多くあった。例えば、大した成長力もないのに、PERで20倍前後あるような株が散見されたが、大いに違和感を覚えたものだ。筆者の記憶で申し上げると、その代表例として、IT関連企業、テレビ局、地方銀行が挙げられる。そうした、違和感のある株価を無理やり正当化するために(単純にSellレーティングを付しておけばいいのに)、アナリストは、PBR、過去平均PER、EV/EBITDA倍率などを良く持ち出して、高い株価を無理に正当化するということを、よく行っていた。
しかし、よくよく考えてみると、例えば過去平均PERを使うということは、企業の現在価値算出の半分以上を放棄しているに等しいというのが私の考えだ。よく、コンサルティング業界で、過去のしがらみに囚われた分析を、「バックミラーしか見ないで自動車を運転する」ことに例えたりするが、過去平均PERを用いた目標株価設定は、この類に分類される極めて低レベルのものであろう。
PBR評価も、しばしばバリュエーションの不整合を招く。例えば、地銀株については、PBR1倍近辺で評価されることで、一部地銀に不当に高い評価が付されていた時代があった。地銀株に限らず、PBR1倍の評価がおかしい理由は、例えば地銀のように同じような事業を行っていて経営に関する大きな定性的違いがない業界で、仮にA銀行のROEが10%、B銀行のROEが5%の場合、両方ともPBRが1倍だとしたら、PERは前者が10倍、後者は20倍になる。なぜ、ROEが高い銀行の方がPERが低くなるかの説明がつかない。これはおかしいと2000年代にずっと思っていたが、現在は地銀セクターの株価は、PER10倍前後に収斂するに至っている。その意味では、私が覚えていた違和感は、概ね正しかったことになる。また、冒頭に述べたIT関連企業やテレビ局も、現在は、概ねPERで説明がつく状況になっている(昔よりPERが低下した)。

常にPERもPBRも高いアドバンテスト株…セルサイドアナリストには
バリュエーションへの挑戦が求められる。

筆者は、製造業の土地勘はそれほどある方ではないので、アドバンテストという会社について、深く知っているわけではない。ただし、半導体検査装置の製造会社として世界的に定評があり、テスター市場でのシェアは世界一で、Teradyne社と2強を形成しているということで、日本の製造業の中でも、かなり魅力的なポジションを維持していることは間違いないであろう。その意味では、日本を代表する企業と言っても決して過言ではない。
しかし、この会社は、過去10年度で5回も赤字を出している。しかも業績の年度ごとの振れ幅が半端ではない。05/3から07/3まで600億円前後の営業利益を出したかと思えば、09/3期には500億円近い営業赤字を計上している。14/3期も350億円以上の営業損失・当期損失を計上している。それなのに、PERやPBRが、通常の価値観から見ると極めて高い。
今期(2015/3期)の会社計画は黒字予想だが、それでもEPS40円強にすぎず、BPSも667円で、6月18日現在の株価1277円からすれば、PERは30倍近く、PBRも2倍に迫る勢いだ。アナリストレーティングも、半数のアナリストが売りレーティングをつけている。それでも、株価は、受注環境好転との見方を背景に、1000円を下値抵抗線として堅調に推移している。
ところで、株価が割高だと思われる銘柄については、想定しうる最大限の実績予想値と比較することが有用である。そこで、ブルームバーグのアナリスト予想コンセンサスを見ると、2016/3期は売上高1473億円、営業利益109億円、2017/3期は同1630億円、151億円となっている。これらを参考に、目一杯強気の業績予想数値として、2017/3期コンセンサス予想値に比して売上高は+20%の2000億円、営業利益は営業利益率10%という、会社が意識している数字が近い将来に実現すると仮定しよう。その場合、当期利益は130億円前後、EPSは75円前後になるが、それでもPERは17倍前後である。やっぱり高い。それが、主観的だという批判はありうるが、少なくとも安くないことは間違いない。
こうなると、この会社のバリュエーションを正当化するには、PER、PBR(もちろんDCFやEV/EBITDAも含む)などの通常のものさしとは違う投資尺度が必要なのではあるまいか?モノの価値が、結局は希少性とインカムゲインの2つの相互作用で決まることを考えたら、恐らくアドバンテストという会社の現在の企業価値を正当化するには、何らかの意味での「希少性」を前面に押し出した評価手法を使うしかないようにも思われる。その「希少性」があるのかないのか、あるとしたら何なのかは、筆者もわからない。いずれにせよ、アドバンテストをカバーしているアナリストには、綿密な業績予想を立てる作業も結構ではあるが、「過去平均PER」というような三流の評価手法を使わずに、論理的かつ説得力がある形のバリュエーションで正当化できるのかどうかにチャレンジしてもらいたい。
その意味では、業績に関するコメントなど要らないので、バリュエーションの話題だけに特化したアドバンテストに関する10ページくらいのセルサイドアナリスト・レポートを見てみたい。
なお、私の感覚からは、90%以上の確率で現在の株価を正当化することはできないと考えている。

大木昌光