No.0049

AIの差別化競争激化によって問題となりうる「未公開情報」の定義

金融取引でAIを活用する場合のノーマルな方法は、大きく分けて2通りあると思われる。第一は、株価や金利などの金融関連データを活用する方法。第二に、決算短信などの文章をなぞる手法。
それらは、いずれにしろ、何らかのアルゴリズムに、データや文章などのビッグデータを投入するという形で行われる。ところで、世の中には色々なアルゴリズムが存在しているようであるが、AIの専門家に話を聞くと、アルゴリズム自体の違いは極めて小さいようである(有意な格差は、アルゴリズムをデータ特性に応じて微調整することで生じるらしい)。また、アルゴリズムに投入するデータ内容には、金融の世界では大きな差が生じない(例えば、特定の日の日経平均株価の終値は、共通である)。 
このように、アルゴリズムにもビッグデータにも大きな違いがないとしたら、各運用機関がAIを金融取引に使った場合の投資判断も似通ってくることが容易に想像できる。この結果、AI取引が全金融取引に占めるシェアが高まるほど、相場は一方向に動きがちになる。このような傾向は、あくまで運用の肌感覚ではあるが、この1年で強まったような気がする。もしこの仮説が正しければ、各AIファンドの運用成績は、公表されるビッグデータ(月次業績とか決算短信など)に対するAIの反応速度の速さに比例するだけになり、結果的に、High Frequency Trading(HFT/高頻度取引)と同様の差別化要因しか残らないことになる。そこに大きなアルファが見込み難いであろう。
このようなAIの限界を踏まえて、最近は様々な試みが行われているようだ。例えば、製造業を例にすると、その企業の工場の衛星画像で在庫情報を把握することなどが挙げられる。これもAI活用の一方法なのかもしれない。そして、業種ごとの違いを踏まえると、業種別に異なるアプローチを展開すれば、他の運用者に先んじて色々な情報を取れることになる。その際の成功の鍵は、「資金量」ということになろう。そうなると、資金量に勝る運用会社の勝率は自ずと高まることになる。
ただし、この点については疑問が残る。こうした方法で得られる情報は「公開情報」ではないという点だ。こうした、「未公開情報」が投資判断材料の主役になり、しかもこうした情報が「未公開情報」にならないとしたら、そもそも「未公開情報」の定義とは何なのかと考え直したくなる。AI浸透が人類に投げかける、新たな課題なのかもしれない。

大木 将充