No.0030

年始恒例の株価予想を通じた雑感

主要企業の経営者20人中17人が年内の日経平均株価2万円達成を予想

年始である上に、久しぶりに「大木レポート」を書くという意味で、とりとめのない書き方をしますが、お許し下さい。
1月3日付の日本経済新聞の17面・18面と、1月4日の日経ヴェリタスの18・19面に、経営者や市場関係者による株価・為替予想が掲載された。年始の恒例行事と化している。
特に私が注目したのが、主要企業の経営者20人の株価予想だ。何に注目したのか?
第一に、株価の下値予想である。何と全予想が、16000~17000円という狭いレンジ内にある。去年に、日経平均が13910円(4月14日)から17935円(12月8日)という4000円を超える振れ幅があったにもかかわらず、である。
第二に、各経営者による「有望5銘柄」予想の目新しさのなさである。1位トヨタ自動車、2位信越化学工業、3位日立製作所…。これを見て「なるほど」と唸る投資家は、個人投資家も含めてそうはいないであろう。ユニ・チャームの高原社長がエムスリーとユーグレナを挙げておられることで、何とかクオリティを保っている状況だ。
第三に、冒頭に書いたとおり、大半の経営者が2万円達成を予想していることだ。これについては、近日に稿を改めて意見を述べたい。
このような現状の下、この記事の使い勝手がないかというと、必ずしもそんなことはない。例えば日本電産の永守社長の「有望5銘柄」は、中身に新味があるか否かにかかわらず興味深い。なぜなら、永守氏が、20人の経営者の中の唯一の創業経営者だからである。氏が挙げられた、東芝、キャノン、ダイキン工業、信越化学工業、富士フィルムホールディングスについては、なじみ深い銘柄ではあるが、注目する意義はあろう。次に、ユニ・チャームの高原社長が創業者一族のご出身であり、上記に述べたようにやや新鮮な銘柄選択をしていることも興味深い。

バラエティに富む日経ヴェリタスの予想からのインプリケーション


 経営者予想と比較すると、日経ヴェリタスの「相場アンケート」も、以下のような注目材料がある。
第一に、日経平均高値予想で25000円という、突出して高い予想が見られることだ。これについては、そういう見方もあるんだなという感想でとどめておこう。
第二に、下値予想に、9000円(ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池氏)、12800円(さわかみ投信の草刈氏)、14500円(田辺経済研究所の田辺氏)という、かなり低い数値が見られることだ。なぜ、これらの数値に着目するかというと、市場の大勢が今年の高値推移を予想する中で、大胆な株価下落リスクが指摘されていることではあるが、もっと興味深いのは、この3氏が共に独立系の会社に所属されていることだ。その意味では、少なくとも傾聴に値すると私は考えている。
少し脱線するが、これを、先ほどの「経営者20人の株価予想」への私のコメントとリンクさせていただくと、私が述べたいことがおわかり頂けるのではないか。ちなみに、私は、本や記事を読むときは、誰が筆者かによって、読むべきか否かの第一次スクリーニングをかけている。例えば、私は、ベネッセの原田社長や、ローソン元社長の新浪氏の本や記事は読まない。なぜならば、これはあくまで主観なので参考程度に留めてほしいのだが、両氏の書かれたもので今の私の参考になることはほとんどないことを私なりに見切ったからだ。そして、その背後にあるものは、両氏は共に、概ねビジネスモデルが完成した会社の経営に携わってきたにすぎないということがあると思う。もちろん、それ自体だけ見ても、私を含めた多くの一般大衆から見たら偉業なのかもしれないが、やはり企業経営で最も難しいのは、「事業の立ち上げから黒字基調にして会社を軌道に載せるところまで」だと思う。そのプロセスでの成功は、その後のプロセスでの成功に比べてはるかに難しいと思う。前述の永守氏でさえ、創業当初に不渡りを掴まされて自殺を図ろうとしたことを見ても、そのことは容易にわかるであろう。私が現会社で頑張る気持ちを持てているのも、今の当社がゼロから立ち上げられて、軌道に乗る前段階にあるという部分も大いにある。
私は、今後も「大木レポート」で何度も書くつもりだが、人間にとって最も大切な資源は「時間」である。これだけ情報があふれた世の中では、情報処理に関しては、ビッグデータ分析などの進化でより多くの情報を集めることが必要だが、人間ベースで見て大切なことは、不必要な情報を切って時間を節減することである。無駄な本など、読んでいる時間はない。
ただし、その前提として重要なことは、以前の「大木レポート」で、消費者金融とナンパの理論の相関について述べたが、食わず嫌いではだめで、どんな情報でも一度は取り入れてその有用・無用の判断をすべきということである。そして、その判断力の速度と正確性は、多くの無駄なものを含む多様な物事に触れないと養えない。然るに、今の人たちの多くは、SNSやネットなどを通じて、周囲の人が良いというものや、自分の好きなものしか取り入れない。これでは、自分の判断力が、いつまで立っても養われないのだ。この差は意外と大きく、私のようなローテクな人間でもファンド運用に携われている理由はここにあると考えている。そこに多くの人が気づいて、自分のやり方を確立するのには私を含む凡人には10年以上の月日が必要だ。だから、私も、あと10年くらいはファンド運用ができそうだ。

「では、お前は相場をどう見るんだ?」という質問への答え

ここまで放言してきて、多くの読者は、「批判するのは簡単だが、当のお前はどう見ているんだ?それを示さないと卑怯ではないか?」という疑問をお持ちになるだろう。もっともである。
これに対する私の答えは、「上記の菊池氏の予想である日経平均9000円のリスクから、武者リサーチの武者氏等の予想である25000円へのアップサイドポテンシャルまでを見据えた運用を行う」ということだ。「そんなのズルイ」との批判もあるかもしれないが、私はもはやセルサイドアナリストではなく、運用者なのである。市場関係者が考えることは、全て参考にするのは、当然のスタンスではないか。それに、特定のレンジの予想を年始に設定してその後もそれに縛られるなんて、不合理でまっぴらごめんだ。そもそも、日本株とドル円の相関が高い中で、ドル円の予想が困難なのに、株価の予想なんて正確にできるわけがない。「去年は為替アナリストが円安予想をして当たったではないか」という人がいるかもしれないが、為替アナリストの多くは、「ドル金利上昇→ドル高」を予想していたはずである。しかし実際は、米国10年国債は、2014年には、前年末の3.03%から12月末に2.17%まで大きく低下しているのにドル高になったのだ。いくら「為替はフォワード金利で決まる」とかいう言い訳をしたところで、正当化できない程の大幅金利低下ではないのか。その意味では、円安予想の前提が崩れているという意味で、2014年も為替予想が当たったとは言いがたい。これは、個別企業のアナリストが、売上予想、粗利益予想、販管費の全てを外しながら、営業利益がぴったり当たったということに近く、予想としての価値や正確性は極めて低いということになるのではないか。
そんなことより、例えば、「12月の株価は、1月に予想するよりも11月に予想する方が精度が高い」という当たり前の考えの下で、これから時々刻々と発生する事象を冷徹に見ながら、運用方針を適宜改め、ポートフォリオを各局面に最適な内容に入れ変え、お客様からお預かりしたお金を適切に運用していくだけである。
それでも納得がいかない読者には、2つのことをお示ししておきたい。第一に、意外に株価が上がらないリスクを相応の程度の確率で織り込んでいること。これについては、先に述べた通り、稿を改めて説明したい。第二に、「有望5銘柄」を挙げるとしたら、私なら、経営者20人が挙げられた銘柄は、一つも入らないということ。しかし、ここではお示ししない。なぜなら、それは、お金をお預け下さったお客様のために100%用いるべきであると考えているからである。

大木昌光