No.0021

経営者を見た上での企業評価①…外国人経営者の会社は売りかもしれない

コストカットは誰でもできる。


経営再建を任された人が、社長就任後にまず着手することは、ほぼ100%がコストカットであろう。なぜなら、これはあらゆる業種特有の経営課題であり、かつ、即効性が高いからである。
これだけで、経営の苦境を乗り切れるケースも相応にある。しかし、一般的には、コストカットと同時並行的に、業容拡大や多角化などの増収策が打たれない場合には、良くて縮小均衡、最悪のケースでは収益率悪化とコストカットのいたち競争に陥る確率が高くなる。なぜなら、コストカットは、人件費に及べば士気低下、広告宣伝費に及べば当該企業の製品の競争力低下、というように、基本的には増収とは逆のベクトルを会社にもたらすからである。
ところで、一般の方々は時々、なぜ経営者が変わらないとコストカットが進まないかを不思議に思うかもしれない。その答えは簡単で、コストカットを効果的に進める際の最大の障害は、会社と従業員・取引先との間の「しがらみ」だからだ。逆に言えば、この「しがらみ」を断つには、過去における従業員の会社貢献や、取引先との古き良き人間的関係などを、一度リセットすることが有用である。人間の記憶メカニズムには、「カタルシス」という不思議な作用があり、良い思い出はもちろんのこと、悪い思い出でさえ時には甘酸っぱいような記憶図に変えてしまうことがあるのは、皆さんも体験があるであろう。したがって、人間関係を抜本的に変えるには、過去の記憶を持たない人が客観的に物事を判断した上で、残すべきことと切り捨てるべきことを峻別するのが最も良い形と言えるであろう。
ただし、仮にトップが交代しても、同じ日本人が就任してしまうと、日本人的思考から脱しきれないことからバサッと切りにくい場面に遭遇する。したがって、そのような場合には、外国人が就任すると最も効率が上がるということになるであろう。カルロス・ゴーン氏による日産自動車の再建成功についても、実は大半が、このようなメカニズムによるコストカットと筆者は認識している。
ただし、これについて、少なからずの方が、「日本人より外国人の方が(コストカットを中心とする)経営再建に適任である」、と誤解しているように思える。正しい理解は、「日本企業を、専らコストカットを中心として再建するには、外国人が適任」であろう。逆に言えば、欧米の企業に、日本人が乗り込んでコストカット型の再建を行えば、全く同じ事を実現できる。
こう考えると、コストカットという策については、「誰でもある程度まではできる」という感が強くなる。

日本の会社を率いた外国人の中で、「コストカット以外」を成し遂げた名経営者はいるのか?


日本企業の経営環境は、日々グローバル化が進み、国際的な視野を欠く経営者にとって経営は日々難易度を増している。その中で、外国人が日本企業のトップに立つ機会もこれから増えてくるものと思われる。
ところで、これまで日本企業を率いてきた外国人経営者の中に、名経営者と呼べる人がどれくらいいるのか?真っ先に思い浮かぶのは、日産自動車のカルロス・ゴーン氏であろう。彼が、日産再生の立役者であることは事実であろう。大胆なコストカットのみならず、生産地の戦略的世界分散を進めたことなどは高く評価されよう。しかし、最近では、彼についてさえ「不要論」が週刊誌などで散見されるに至っている。これについては、筆者は、最近の日産自動車の細かい経営状況について良く知らないので、軽率な発言は控えたい。しかし、強いて言えば、彼の存在が現在の日産自動車にどのような付加価値をもたらしているか傍目からは不明である上に、20年以上前にスカイラインやシルビア等の日産の魅力的な車から何を選ぼうか迷っていた自身の経験との比較で、今は日産自動車の商品ラインアップの中で何も買いたいものがなく、かなり製品開発力が落ちていると感じざるをえない(なお、公正を期すために申し上げると、今のホンダにも筆者にとって魅力的な自動車がない。これが、ホンダについての不安要因である)。その中で10億円近い年収は、筆者の個人的感覚からは多すぎると言わざるをえないであろう。もし10億円払うなら、10人の優秀な人間を年収1億円でスカウトした方がいい可能性は十分にあろう(1億円出せば、相当優秀な人が採用できる!)。アナリストには、是非、この10億円という年収が、彼に見合った額なのか否か論じてもらいたい。なお、ゴーン氏は、自身の報酬について、他の欧米の経営者と比較して多すぎるとは思わないと言っているが、これなどは、コストカットの場合とは異なり、外国人が日本人の考え方に歩み寄らないという事実から派生して、ネガティブな効果をもたらすと思われる(コストカットが、外国人が日本人の考え方に歩み寄らないという形で、ポジティブな効果をもたらしうることと対照的)。10億円も年収をもらっている社長のいる会社、しかもそれでも多くないと言っている社長のいる会社は、かなりの確率で日本社会からは反発を食らうであろう。ゴーンさん、それくらい勉強したほうがいいよ、中国市場の方が大切なんだろうけど。例えば、日産の車とスズキの車のどちらを買おうか迷ったら、私なら、毎年恥じることなく10億円の禄を食むゴーン社長の会社の車より、80歳を超える高齢で頑張っている鈴木社長が率いるスズキの車を買うであろう。
なお、ゴーン氏以外でも、例えば筆者がアナリスト時代に見てきた金融業界の経営者で言えば、新生銀行のティエリー・ポルテ氏は新生銀行を混乱させたし、あおぞら銀行のブライアン・プリンス氏もこれといった実績はないような印象だ。
他業界に目を転じても、日本板硝子では、クレイグ・ネイラー氏が在任2年弱で退任した上に、ネイラー氏の前の社長のスチュアート・チェンバース氏は、「家族のため」という、なめたような理由でやめている。ソニーの前社長のハワード・ストリンガー氏は、09年3月期から赤字を垂れ流し続けて、ソニーを迷走させた。オリンパスのマイケル・ウッドフォード氏の主な功績は、オリンパスの内部事情を暴露しただけであり、純粋な経営者としての功績はクエスチョンである。
そのような中、武田薬品工業ではクリストフ・ウェバー氏が社長に就任し、日本マクドナルドホールディングスではサラ・カサノバ氏が、社長に就任したが、前者は、株主である創業家やOBの一部が社長就任に反対する質問状を株主総会に提出したし、後者は中国の鶏肉問題で苦難の道が始まる、というように、早くも先行きに暗雲が漂い始めている。
このように、外国人経営者に関する過去のトラックレコードを見ていくと、上記の日産自動車、武田薬品工業、日本マクドナルド、ソニーのような外国人経営者が率いる会社は、ただでさえ本業が不透明である中で、今後はコストカット以外の施策を打たない限り、外国人経営者であることの無形のデメリットを抱えていくリスクは否定できない。その意味で、これらの会社は、今後株式市場で、絶好のショート対象となっていく恐れがあろう。

大木昌光